HSDとは(過可動性スペクトラム障害)——体が柔らかいことだけでは、HSDにならない
- HSDは「関節が通常より大きく動く体質」に、痛みや疲労などの症状が伴っている状態の診断名です
- 体が柔らかいだけで困っていなければ、HSDにはなりません。体質×症状の組み合わせです
- 日本では知名度が低く、「気のせい」「運動不足」と誤解されやすい領域です
HSDとは?
「調べても、しっくりくる答えが出てこない」「病院でも『体質ですね』で終わった」「この疲れやすさ、結局なんなの」——そんな検索の夜を、何度も過ごしてきませんでしたか?
HSD(Hypermobility Spectrum Disorders/過可動性(かかどうせい)スペクトラム障害)とは、 関節が通常より大きく動く体質(関節過可動)があり、そこに慢性的な痛み・強い疲労・ 繰り返す捻挫や脱臼などの症状が伴っていて、ほかの病気では説明がつかない場合につく診断名です[2]。 2017年に国際的な分類が整理された、比較的新しい概念です[3]。
「体が柔らかい人」と「HSD」の境目
関節が一般的な範囲を超えて動くこと自体は、病気ではありません。 一般人口の約20%にみられる、よくある体質です[1]。 体が柔らかくて、それで困っていないなら、それはただの個性です。
境目は症状があるかどうか。柔らかさに痛み・疲労・ケガの繰り返しが伴い、 生活に影響が出ているとき、はじめてHSDという診断名の対象になります。 「柔らかい」は入口の条件にすぎず、本体は症状のほうです。
HSDの4つのタイプ
HSDは、ゆるさが体のどこにあるか(全身か・手足か・特定の関節か・昔はあったか)によって 4つのタイプに分かれます。それぞれの見分け方は別の記事で詳しく解説しています。
hEDSとの関係
よく似た診断名にhEDS(過可動型エーラス・ダンロス症候群)があります。 hEDSには厳密な国際基準があり、そこまでは満たさないが症状はある、という人がHSDと診断されます。 重症度の順位ではありません。くわしくは別の記事で解説しています。
発達障害のある人の50%超に見られる「関節のゆるさ」
英国の研究では、ASD・ADHD・チックのある成人の50%超に関節過可動がみられました。 一般人口では約20%なので、2倍以上の割合です[1]。 このサイトが「発達特性と身体」をセットで扱う理由が、この数字です。
ここまで読んで、「じゃあ私、病気なの?」と不安になった方もいるかもしれません。急がなくて大丈夫です。HSDは「症状があるなら、対処を考えていい」という許可をくれる名前であって、あなたを脅かすための名前ではないんです。
HSDはどうやって診断されるのか?
診断は医療機関で行われます。流れは大きく、①関節のゆるさの評価(バイトン・スコア)、 ②症状の確認、③ほかの病気ではないことの確認(除外診断)、の3段階です[3]。 どの診療科に行けばいいか・症状をどう伝えるかは、医療機関ガイドで順次公開します。
「HSD」という名前が生まれた背景
HSDは2017年に整理された、比較的新しい診断名です。それ以前は「関節過可動症候群(JHS)」 「エーラス・ダンロス症候群 過可動型」など呼び名が入り混じり、医師によって診断がばらつき、 研究同士の比較も難しい状態が続いていました。そこで国際的な専門家グループが分類を作り直し、 厳密な基準を満たすものをhEDS、基準までは満たさないが症状があるものをHSDとする現在の形になりました[3]。
つまりHSDは「新しく見つかった病気」ではなく、昔からあった困りごとに、やっと整理された名前がついたものです。 名前が新しいぶん医療者の間でも認知に差があり、日本語の情報が少ないのもこのためです。 「調べても出てこなかった」のは、あなたの探し方の問題ではありません。
よくある誤解
- 「体が柔らかいのは健康の証」——柔軟性の高さ自体に良いも悪いもありません。分かれ目は症状とセットかどうかです
- 「年を取って硬くなれば治る」——可動域は年齢で狭くなりますが、ゆるい関節を支え続けてきた筋肉と関節の負担の歴史は残ります。だからこそ「昔はゆるかった」人のための分類(既往型)が用意されています
- 「珍しい病気でしょう?」——関節のゆるさ自体は人口の約20%にみられるありふれた体質です[1]。症状に悩んでいる人も、決して珍しくありません。「私だけ」ではないのです
名前も分からないまま、それでも毎日をこなしてきた。そして今、自分の体を理解しようとしている——そんなあなたは、もう最初の一歩を踏み出しています。
この記事のまとめ
- HSDは「関節がゆるい体質」+「症状」で診断される。柔らかいだけでは診断されない
- 2017年に国際的に整理された新しい名前で、昔からあった困りごとにようやく名前がついたもの
- 関節のゆるさ自体は人口の約20%にあるありふれた体質。発達特性のある人では50%超と、さらに身近
- 診断は医療機関で。セルフチェックは受診を考えるための目安
長いあいだ名前のなかった体の困りごとに、名前と地図ができました。 ここから先は、ゆるさの分布(4つのタイプ)、測り方(バイトン・スコア)、 体の中で起きていること(筋肉とエネルギー)へと、知識を一歩ずつ広げていけます。 急がなくて大丈夫です。このサイトは逃げません。
HSDについて、よくある質問
HSDとは何ですか?
HSD(過可動性スペクトラム障害)とは、関節が通常より大きく動く体質(関節過可動)に、 痛み・疲労・ケガの繰り返しなどの症状が伴っていて、ほかの病気では説明がつかない場合につく診断名です。
体が柔らかいだけでも、HSDですか?
いいえ。柔らかくても症状がなければHSDではなく、ただの体質です。 痛みや疲労などの症状が伴ったときに、はじめて診断の対象になります。
HSDとhEDSは、どう違いますか?
hEDS(過可動型エーラス・ダンロス症候群)には厳密な国際基準があり、 それを満たすかどうかで診断名が分かれます。重症度の順位ではありません。 くわしくはHSDとhEDSの違いで解説しています。
HSDは、何科を受診すればいいですか?
膠原病内科・整形外科などが入口になります。症状によって適した科が変わるため、 受診先の選び方は医療機関との繋がり方で順次解説します。
HSDは治りますか?
体質(コラーゲンの性質)そのものを変える治療は、今のところありません。 一方で、関節を守る筋力づけやエネルギー管理など、症状の負担を減らす付き合い方は 知られており、医療機関で相談できます。
- Csecs JLL, et al. Joint Hypermobility Links Neurodivergence to Dysautonomia and Pain. Front Psychiatry. 2022. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8847158/
- The HMSA. HSD diagnostic criteria. https://www.hypermobility.org/hsddiagnostic-criteria
- The Ehlers-Danlos Society. Diagnostic Criteria. https://www.ehlers-danlos.com/diagnosis/