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体は柔らかいのに、運動ができないのはなぜか

この記事でお伝えすること
  • 「柔らかい=運動神経がいい」は誤解です。柔軟性と運動の制御は別の能力です
  • 可動域が広い関節は、制御しなければならない範囲も広い。つまり操作の難度が上がります
  • 柔らかくて運動が苦手な子どもは、研究でも一定の割合で確認されています

柔軟性は「範囲」、運動は「制御」

「柔らかいね、って褒められるのに、運動はダメ」「体育の成績だけ、いつも悪かった」——その矛盾が、ずっと不思議ではありませんでしたか?

前屈がべったりつく。開脚が得意。だから運動もできるはず——とはなりません。 柔軟性が示すのは関節が動く範囲で、スポーツで問われるのは、その範囲の中で身体を狙った位置に止める制御です。

可動域が広いということは、制御対象が広いということ。 ハンドルの遊びが大きい車を、正確に車庫入れするようなものです。 しかも関節がゆるいと位置センサー(固有受容覚)の情報も曖昧になるので[1]、 「広い範囲を、曖昧な計器で操作する」という二重の難度になります。

研究では

  • DCD(発達性協調運動症)の子どもの64%に全身の関節のゆるさ(比較群33%)[2]
  • 関節のゆるさで外来を受診した子どもの30〜50%に運動発達の遅れ[3]

「柔らかいのに運動が苦手」は、矛盾ではなく、研究上はセットで現れやすい組み合わせです。

ここまで読んで、「じゃあこの柔らかさは無駄なの?」と思った方もいるかもしれません。無駄ではなく、説明書が別売りだっただけなんです。

身体との付き合い方が変わる

この構造が分かると、方針が変わります。可動域を広げる練習(ストレッチ)はすでに足りているどころか、 やり過ぎるとゆるさを助長します。必要なのは逆で、関節を安定させる力を育てること。 安全な鍛え方はペーシングのコーナーで扱っていきます。

「柔らかさが褒められる場所」ほど、気をつけたい

ヨガ、ダンス、新体操、チアリーディング。柔らかさが評価される活動では、 可動域の端まで体を使う動きが喝采を浴びます。関節がゆるい人はそこで「才能がある」と言われやすく、 端まで伸ばす動きを人一倍繰り返すことになります。 楽しむこと自体は否定しません。ただ、続けるなら3つだけ決めておいてください。 ①可動域の端までは行かない(8割で止める)、②痛みが出たらその日は終了、 ③指導者に「関節がゆるい体質」と伝えておく。 拍手のために体を差し出さなくていいのです。

運動を選ぶなら、どんな視点で

「柔らかさを活かす競技」より「安定性を育てる運動」という視点が役に立ちます。 一般に、水中での運動は浮力のぶん関節への負荷が小さいと言われます。 何を選ぶにしても、関節に不安がある場合は、始める前に医療機関や運動の専門家に 体質を伝えて相談するのが安全です。安全な筋力の育て方は、ペーシングのコーナーで順次扱います。

それでも、柔らかさは才能です

この記事は「柔らかさは危険」という話ではありません。 使い方の説明書がなかっただけで、体質そのものに良いも悪いもありません。 説明書を手に入れた上でなら、柔らかさはあなたの体の個性として、安全に付き合っていけます。

よくある質問:ストレッチは全部ダメなのですか?

いいえ、全部ではありません。問題になるのは「可動域をさらに広げようとする強いストレッチ」です。 もともと広い可動域を、端からさらに押し広げる方向の負荷は、ゆるい関節には裏目に出やすいのです。 一方、運動前のウォームアップや、痛みのない範囲で体を軽く動かすことまで否定するものではありません。 境界線の引き方は体の状態によって違うので、不安がある場合は理学療法士など専門家に 「関節がゆるい体質」と伝えて相談してください。

「柔らかいのに運動ができない」は、長いあいだ笑い話として処理されてきた組み合わせです。 でもその裏には、ちゃんと研究された構造がありました。笑い話にしてきたのは、 ほかに説明がなかったからです。今日からは、説明のほうを採用してください。

もしお子さんが「柔らかいのに運動が苦手」のパターンに当てはまるなら、 体育の成績で責めないであげてください。本人がいちばん不思議で、いちばん悔しいのです。 説明があるだけで、子どもの自己評価の削られ方はまったく違います。

矛盾した体を、誰にも説明してもらえないまま使いこなそうとしてきた。あなたのその試行錯誤は、間違っていませんでした。

この記事のまとめ

  • 柔軟性は「関節が動く範囲」、運動神経は「その範囲を制御する力」。別物
  • 可動域が広いほど制御は難しくなる。柔らかいのに苦手なのは矛盾ではない
  • 柔らかさが褒められる場では、端まで伸ばす動きを繰り返しやすい。8割で止める・痛みで中止・体質を伝える
  • 柔らかさ自体は個性。説明書を手に入れた上でなら、安全に付き合える

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もしかして自分もそうかも?と思った方は、まずは自分の関節のゆるさを確かめるところからチェックしてみてください。

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出典
  1. Smith TO, et al. Do people with benign joint hypermobility syndrome have reduced joint proprioception? Rheumatology. 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23728275/
  2. Jelsma LD, et al. BMC Pediatr. 2013. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3605363/
  3. Developmental Coordination Disorder and Joint Hypermobility in Childhood: A Narrative Review. 2022. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9317025/