発達障害で疲れやすいのはなぜか——脳ではなく身体から見た理由
- 発達障害の疲れやすさは「脳の処理負荷」で説明されることが多いですが、それだけでは足りない場合があります
- 発達特性のある人の50%超に関節過可動があり、身体の維持コスト自体が高い可能性があります
- 「みんな疲れてるのに、自分だけおかしい」——その比較が成り立たない理由(支出の構造の違い)を説明します
「脳が疲れる」説明だけでは、足りない
「みんな疲れてるのは同じでしょ、って言われた」「甘えなのかなって、自分でも思ってしまう」——そんな夜は、ありませんか?
よくある説明はこうです。感覚情報のフィルタリングに常時エネルギーを使う。 場に合わせる(マスキング)ための認知負荷が大きい——。どちらも事実で、重要です。 ただ、この説明だけだと「では休日に一日寝ていたのに、なぜ回復しないのか」に答えられません。
身体側の理由(1)筋肉が働きすぎている
英国の研究で、ASD・ADHD・チックのある人の50%超に関節過可動(関節のゆるさ)がみられました。一般人口では約20%です[1]。
関節がゆるい身体では、靭帯の代わりに筋肉が骨格を支え続けます。 座っていても、立っていても、筋肉は静かに残業中。 「何もしていない時間」にもエネルギーが流出しているので、 同じ1日を過ごしても消費総額が違います[2]。
身体側の理由(2)自律神経の維持コスト
同じ研究では、関節過可動が立ちくらみや動悸といった自律神経の不調、 そして痛みとつながっていることも示されました[1]。 血圧や体温の維持に人より手間がかかる身体は、それ自体が固定費の高い身体です。
ここまで読んで、「疲れる原因が増えただけで、余計に絶望的では」と思った方もいるかもしれません。違うんです。支出項目が見えた分だけ、削れる場所も増えました。
「みんな疲れてるよ」が当てはまらない理由
「みんな疲れてるよ」は事実ですが、支出構造が違う相手に同じ予算感覚を求めるのは、会計として雑です。 脳の処理負荷+筋肉の維持費+自律神経の固定費。この三重の支出を前提にすれば、 必要なのは、エネルギーの予算管理だと分かります。 その方法(スプーン理論)は、ペーシングのコーナーで扱います。
「寝ても回復しない」が起きる理由
普通の疲れは寝れば回復します。でもこの体には、睡眠中も続いているコストがあります。 横になっても、関節を安定させる筋肉の仕事は完全にはオフになりません。 痛みやこわばり、感覚の過敏さで眠り自体が浅くなることもあります。 「8時間寝たのに疲れている」のは、寝方が悪いのではなく、 夜のあいだも体が完全休業できていないからかもしれません。
エネルギーの帳簿を、1時間の会議で見てみる
同じ1時間の会議でも、支払っているものが違います。 ①椅子の上で姿勢を保つ筋肉の維持費、②空調・照明・声の処理という感覚の処理費、 ③表情と相づちを整えるマスキング費。三重払いです。 定時に「もう何も残っていない」となるのは、帳簿のうえでは完全に正常な結果です。 あなたの体力が人より劣っているのではなく、同じ業務の原価が高いのです。
今日からできる、3つの小さな手
- 支えを使う——背もたれ、肘掛け、壁。筋肉の維持費を外部に肩代わりさせる
- 休憩を予定に入れる——疲れてから休むのではなく、疲れる前に休みを配置する(くわしくはペーシングのコーナーで)
- 疲れの正体を言葉にする——「原価が高いだけ」と自分に言えるようになると、自分を責める支出がひとつ減ります。これも立派な省エネです
「甘え」と言われたときのために
説明を求められたとき、感情で返すと消耗します。数字で短く返せるよう、1行だけ覚えておいてください。 「発達特性のある人の半数以上に関節のゆるさがあって、体の維持コスト自体が高いという研究があるんです」—— 相手が理解するかはコントロールできませんが、自分の中に根拠があるだけで、揺さぶられ方が変わります。
帳簿の合わない疲れを、誰のせいにもせず背負ってきた。あなたはもう、十分すぎるほどやってきました。ここからは帳簿の側を直しましょう。
この記事のまとめ
- 発達障害の疲れやすさは、脳の処理負荷に加えて、身体の維持費(筋肉・自律神経)でも説明できる可能性がある
- 発達特性のある人の50%超に関節過可動。身体の固定費が高い体は、同じ1日でも支出が多い
- 寝ても回復しきらないのは、睡眠中も体が完全休業できていないから
- 必要なのはエネルギーの予算管理。支えを使う・休憩を予定に入れる・疲れの正体を言葉にする
「みんな疲れてる」「甘えてるだけ」という言葉に、長く黙ってきた人へ。 あなたの疲れには帳簿があり、帳簿には根拠があります。 ここから先は、その帳簿をどう黒字に近づけるかという、実務の話をしていきましょう。 スプーン理論を使った予算管理の方法は、ペーシングのコーナーで扱います。
- Csecs JLL, et al. Joint Hypermobility Links Neurodivergence to Dysautonomia and Pain. Front Psychiatry. 2022. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8847158/
- College Hill Pilates and PT. EDS and Tight Muscles. 2020. https://www.collegehillpilatespt.com/2020/05/21/eds-and-tight-muscles-if-my-joints-are-so-loose-why-do-i-feel-so-tight/