なぜHSDとASD・ADHDは併発しやすいのか——研究が示す「50%超」
- 英国の研究で、ASD・ADHD・チックのある成人の50%超に関節過可動がみられました(一般人口は約20%)
- 関節のゆるさは、自律神経の不調や痛みと発達特性をつなぐ「橋」になっている可能性があります
- なぜ重なるのかの仕組みは研究途上です。分かっていることと仮説を分けて紹介します
まず、数字から
「心の問題って言われたけど、体もつらい」「どの病院に行っても、半分しか話を聞いてもらえない」——そんなたらい回しの経験は、ありませんか?
- ASD・ADHD・チックのある成人の50%超に関節過可動。一般人口では約20%[1]
- 成人ADHDでは全身性の関節過可動が32%。比較群では14%[2]
- DCD(発達性協調運動症)の子どもでは64%。比較群では33%[3]
どの研究でも、発達特性のある群のほうが2倍以上の割合で関節がゆるい。 偶然として片づけるには、再現されすぎています。
なぜ重なるのか——現時点の見立て
断定できる段階ではありませんが、研究者が挙げている筋は主に3つです。
- 結合組織は全身にある——関節だけでなく、血管・皮膚・自律神経系の支持組織も同じコラーゲンでできています。土台の性質が全身に効いている可能性[1]
- 身体からの情報が曖昧になる——ゆるい関節はセンサー(固有受容覚)の精度を下げます。身体の情報が曖昧なまま発達すれば、運動にも注意にも影響しうる[4]
- 遺伝的な近さ——結合組織の性質も発達特性も遺伝の影響が大きく、背景が重なっている可能性
「心の問題」とされてきた身体症状
この研究のもうひとつの重要な発見は、関節過可動が自律神経の不調(立ちくらみ・動悸など)と痛みを媒介していたことです[1]。 発達特性のある人の身体症状は、長いあいだ「気にしすぎ」「二次的なストレス」と説明されがちでした。 そこに、身体の構造という別ルートの説明が加わったことになります。
ここまで読んで、「重なりやすいって言われても、私はどうすれば」と思った方もいるかもしれません。答えはシンプルで、まだ見ていない半分を確かめること、なんです。
この数字を、どう使うか
発達特性がある(またはその傾向を感じる)なら、身体のゆるさも一度確かめてみる価値があります。 逆も同じです。片方しか見ていないと、疲労や痛みの説明がいつまでも半分のままになります。
この研究の、何が画期的だったのか
長いあいだ、発達特性の研究は脳と心理の領域、関節の研究は整形外科の領域と、別々の世界で行われてきました。 同じ一人の人間が両方の困りごとを抱えていても、診察室が分かれていたのです。 Csecsらの研究が画期的だったのは、同じ人の「神経発達特性」と「関節のゆるさ」と「自律神経症状・痛み」を まとめて調べて、そのつながりを統計的に示したことです[1]。 「心の問題」と「体の問題」に分けられて、どちらの診察室でも半分しか話を聞いてもらえなかった人にとって、 この橋渡しには大きな意味があります。
数字を自分に当てはめるときの注意
50%超という数字はインパクトがありますが、裏を返せば、発達特性があっても関節がゆるくない人も半数近くいます。 統計は「傾向」であって「宣告」ではありません。 正しい使い方は、「発達特性があるなら、身体のゆるさも一度確かめてみる価値がある」という チェックのきっかけにすることです。当てはまらなければ、それはそれで大事な情報です。 逆に、関節がゆるいからといって発達障害だと自己判断するのも誤りです。どちらの方向にも、決めつけずに。
「心」と「体」に分断された2つの診察室の間で、自分の全体像を探し続けてきたあなたへ。橋は、もう架かり始めています。
この記事のまとめ
- ASD・ADHD・チックのある人の50%超に関節過可動(一般人口は約20%)。複数の研究で再現されている重なり
- 背景の見立ては3つ:全身に共通の結合組織・曖昧な位置情報が発達に与える影響・遺伝的な近さ
- 関節のゆるさは、自律神経の不調と痛みをつなぐ位置にあると示された
- 統計は傾向であって宣告ではない。「確かめるきっかけ」として使うのが正しい
発達の特性と身体の症状を、別々の部屋で悩んできた人にとって、この研究は2つの部屋をつなぐ廊下のようなものです。 どちらか半分だけを見て「気のせい」と言われてきた経験があるなら、 もう半分を確かめる価値は十分にあります。
併発について、よくある質問
なぜHSDと発達障害(ASD・ADHD)は併発するのですか?
理由はまだ研究の途上ですが、有力な見立ては3つあります。関節だけでなく血管や自律神経の支持組織も同じ結合組織でできていること、 ゆるい関節は体の位置情報(固有受容覚)を曖昧にし発達に影響しうること、そして遺伝的な背景が近い可能性です。
どのくらいの割合で重なりますか?
英国の研究では、ASD・ADHD・チックのある成人の50%超に関節過可動がみられました(一般人口は約20%)。 成人ADHDでは32%(比較群14%)、DCDの子どもでは64%(比較群33%)という報告もあります。
発達障害がある場合、関節のゆるさも調べたほうがいいですか?
調べてみる価値はあります。疲労や痛みの一部に身体側の説明がつく可能性があるためです。 まずはバイトン・スコアの自己チェックで確かめて、症状が続いているなら医療機関での評価を検討してください。
- Csecs JLL, et al. Joint Hypermobility Links Neurodivergence to Dysautonomia and Pain. Front Psychiatry. 2022. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8847158/
- Glans M, et al. Association between adult ADHD and generalised joint hypermobility. 2022. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9471100/
- Jelsma LD, et al. The relationship between joint mobility and motor performance in children with and without DCD. BMC Pediatr. 2013. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3605363/
- Smith TO, et al. Do people with benign joint hypermobility syndrome have reduced joint proprioception? 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23728275/